
工作機械の耐久性・精度・加工性能に最も大きな影響を与える要素の一つが「平面度」です。平面度とは、機械のベッドや摺動面がどれだけ正確な平面に仕上がっているかを示す重要な指標であり、この精度が高いほど、加工精度の安定性や長期稼働時の信頼性が向上します。
平面度をミクロン(μm)単位まで高めるためには、切削や研削といった機械加工だけでは限界があります。そこで不可欠となるのが、熟練技術者の手作業によるきさげ加工です。
本稿では、ジェイテクトマシンシステムズ(タイランド)(以下、JMSTH)が有するきさげ加工技術についてご紹介いたします。
きさげ加工とは、スクレーパーと呼ばれる専用工具を用い、金属表面の微細な凸部を手作業で削り取りながら、平面度や直角度を高精度に仕上げる加工技術です。工作機械のベッドやスライド面、案内面など、高精度な摺動性能が求められる箇所に用いられます。

きさげ加工の大きな特長は、単に平らにするだけでなく、表面に意図的な微細凹凸を残す点にあります。
あまりに平面すぎると、物と物がピッタリとくっついて離れにくくなる「リンキング」という現象が起きます。リンギングが起きてしてしまうと、摺動がスムーズにいかず故障や部品の摩耗が起き、加工精度が狂う原因になります。そのため、意図的な凹凸は【潤滑油の保持層(油溜まり】として機能し、摺動性の向上や摩耗低減、焼き付き防止に貢献します。

このような加工は高度な経験と感覚が求められるため、熟練技能者による手作業が不可欠であり、日本の工作機械技術を象徴する伝統技術の一つでもあります。
きさげ加工は、以下のような工程を繰り返しながら精度を高めていきます。
1.基準面とのアタリ確認
定盤や基準治具に色粉(ブルー)を塗布し、ワークと軽く摺り合わせます。
これにより、高い部分(凸部)にのみ色が付着し、削るべき箇所が明確になります。


2.スクレーパーによるきさげ作業
色が付いた部分をスクレーパーで少量ずつ削り取ります。一度に削る量はごくわずかで、作業と確認を何度も繰り返すことで、平面度を徐々に高めていきます。

3.仕上げと精度確認 マスタープレートと呼ばれる平面度の高い基本プレートを作るために、プレートを3枚用いて、3枚擦り合わせという手法を用います。3枚のプレートを相互に摺り合わせを進めることで、絶対的な基準定盤を高精度な面出しを可能にします。 3枚で行うのは、2枚で行った摺り合わせの場合、「わずかに湾曲していても」互いのプレートのアタリが出てしまう場合があります。そのため、3枚の互いの組み合わせで均一なアタリが出ると3面すべてが真に平坦であるという判断ができるのです。 きさげ加工は、単なる表面仕上げではなく、工作機械の性能を根本から支える技術です。 工作機械の高精度化・長寿命化を実現するためには、平面度の確保が不可欠であり、その中核を担う技術がきさげ加工です。
JMSTHでは、日本品質のきさげ技術をタイ国内で提供し、研削盤をはじめとする工作機械の信頼性向上に貢献しています。
▲塗料が取れた部分(アタリ)は出っ張っているのでその部分を重点的に削ることで高低差をなくしていく
仕上げ工程では、より薄い色粉を用いてアタリ密度を確認し、「坪当たり(単位面積あたりの接触点数)」を均一化します。これにより、数ミクロンレベルの高精度な平面が完成します。
\定盤のマスタープレートは3面で摺り合わせる/
▲JMSTHで保有している定盤のマスタープレート
きさげ加工がもたらす付加価値
• 機械精度の長期安定化
• メンテナンスコストの低減
• 生産性、加工品質の向上
現在タイには、きさげ加工が行えるエンジニアが6名在籍しており、そのうち1名は本社が基準とするテストに合格したマイスターレベルの技術者です。
▲JMSTHオーバーホール工場の技術スタッフ一同
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