
タイ進出企業にとって、ERP(基幹システム)の刷新は「単なるシステム更新」ではない。業務標準化・グループ連携・ガバナンス強化を実現するための経営基盤改革である。
本稿では、Thai Chori Co., Ltd.(以下、タイ蝶理)におけるERP(Microsoft Dynamics 365)システム導入事例を紹介する。Microsoft Dynamics 365
蝶理グループのタイ法人であるタイ蝶理は、繊維および化学品を中心とした専門商社である。繊維分野ではカーシート用素材や不織布、化学品分野では食品添加物などを取り扱い、タイ国内を中心に、ベトナムや中東を含む三国間貿易も展開している。

同社では従来、「Dynamics NAV 2016」を基幹システムとして運用していたが、サポート終了に伴い、新たなERPへの移行が急務となっていた。
本プロジェクトでは、単なるシステム置き換えにとどまらず、業務課題の洗い出しと業務効率化を同時に実現する方針が採用された。特に、すでに蝶理インドネシア法人で導入実績のあるシステムテンプレートを活用することで、ゼロベースでの開発に比べてコスト削減と導入リスク低減を図った点が特徴である。
複数のシステムベンダーを比較した結果、タイ蝶理はThai NS Solutions(以下、ThaiNS)を採用した。決め手となったのは、単なるERP導入ではなく、「将来のグループ展開を、見据えつつ、タイ拠点の現実的な業務に落とし込める」という点だった。
その理由の一つが、グループ会社であるPT NSSOL SYSTEMS INDONESIA(インドネシアNS)がすでに蝶理インドネシア法人でのシステム導入実績があったことだ。既存開発システムの横展開により、開発効率と品質の両立が可能となった。
さらに、同社の強みであるローカライゼーション対応も評価された。ThaiNSは創業当時からMicrosoftのERPを取り扱っており、開発や導入のノウハウも豊富だ。タイ特有の税務・会計要件に対応した機能を標準パッケージとして保有しており、現地業務に即したERP構築が可能である。
加えて、単なる開発ベンダーではなく、コンサルティング視点での提案力が導入の決め手となった。現場から上がる要望に対し、必要性や費用対効果を踏まえて取捨選択を行い、予算にあわせた適切な開発と活用提案を行った点が高く評価されている。
「私自身、日本での業務では基幹システムを活用することも少なく、システムに関しての知識や経験はほとんどありませんでしたが、ThaiNSの皆さんがコンサル的な立ち位置で要件定義をサポートしてくれたので安心してプロジェクトを進めることができました。
プロジェクトのマネージャー以上が参加する月1回の進捗管理会議を行い、日本人タイ人問わずプロジェクト参加者での共通のコンセンサスを取りながら進められたこともポイントです。これにより、全員が納得感をもって進められたので満足度の高いプロジェクトになったと感じています」(タイ蝶理 永井氏)
本プロジェクトでは、2社それぞれに日本人&タイ人のプロジェクトマネージャー(PM)チームを配置する体制が採用された。 2026年1月の本番稼働以降、大きなトラブルは発生しておらず、システムは安定的に運用されている。 今後は保守契約をベースに、さらなる機能強化が検討されている。具体的には、Microsoft 365との連携強化やワークフローの高度化、AI(Copilot)活用などが視野に入っている。 
▲左から、Chayapa氏(PM)・タイ蝶理Kittitara氏・ThaiNS Ornticha氏 ・タイ蝶理 Netnapa氏(PM)
日本人:予算やスケジュールなどのプロジェクト全体管理&最終意思決定
タイ人:業務整理・要件具体化
上記のような役割分担と2社のPM同士での細やかな連携により、英語を介したコミュニケーションで発生しがちな認識のズレを最小限に抑えることができたという。
また、現場業務を理解するタイ蝶理タイ人スタッフと、プロジェクト全体管理を行うタイ蝶理日本人の調整役としてThaiNSが間に入り、要件定義における両者間の理解や落としどころを探るサポートやアドバイスを行ったことで、実務に即したシステム設計が実現された。
最終的には本要件定義がタイ蝶理での業務フローの整理になり、フローシートとして可視化できたことで、組織内の共通認識形成にも寄与できたと評価の声があがっている。
「システム導入の知識や経験豊富なThaiNSスタッフが要件定義における的確なアドバイスを提供してくれました。弊社内の日本人・タイ人それぞれの要望を整理して認識のズレをなくす役割を担ってくれたので、PMとしてもプロジェクトを進めやすかったです」(Netnapa氏)
導入効果|業務に支障のないスムーズな稼働。大幅な業務効率化
導入効果としては以下が挙げられる。
• 業務プロセスの標準化による作業手順の統一
• 属人業務の削減によるヒューマンエラー低減
• 処理スピード向上による業務リードタイム短縮
• クラウド化により、拠点を問わない承認・業務遂行が可能に
ThaiNSのサポートにより、タイ蝶理の現場スタッフは短期間で新システムを習熟し、問い合わせ件数も大幅に減少するなど、現場定着も順調に進んでいるという。
「ThaiNSチームは、課題を的確に理解し、迅速かつ的確に私たちの質問や疑問に回答してくれました。また、要望通りに対応できない場合でも、代替案を提示していただき、業務が滞りなく進められています」(Kittitara氏)
今後の展望|Microsoft 365を基軸とした更なる効率化に期待
さらに、本社(SAP)とのデータ連携による経営ダッシュボード構築も検討されており、グローバルでのデータ活用が加速する見込みである。
タイ蝶理の事例は、ERP導入において「標準化」「グループ展開」「ローカライズ」の3要素をバランスよく実現した好例である。タイ進出企業にとって、単なるシステム刷新ではなく、業務改革を見据えたERP導入が今後ますます重要になるといえる。

▲左から、ThaiNS 雪江氏・Ornticha氏 ・Chayapa氏、タイ蝶理 Netnapa氏・Kittitara氏・永井氏

